ドクターインタビュー 妊娠する力の強弱を知り人生設計を考える

今回は、患者さんの声を「聞く」事をとても重要視されている津田沼の不妊治療専門のクリニック、津田沼IVFクリニックの吉川先生にインタビューさせていただきました。



ーー津田沼IVFクリニックの治療基本方針を教えてください。

津田沼IVFクリニックでは、患者さんの声を「聞く」ことをとても重視しています。必要な時には、数十分から1時間以上の時間をいただくこともあります。患者さんがお持ちの考え、希望、知識、情報などを正確に理解することが、妊娠への最も効率的で最短な治療を提供することができるからです。

ーー将来妊娠をのぞむ若い女性たちが(すぐに不妊治療の通院を始めるのではなく)現在自分自身に妊娠する力があるのかどうかの相談や検査をすることは可能なのでしょうか?

可能です。
とても歓迎しています。
令和2年の妻の平均初婚年齢は、29.4歳とされています。平成7年と比較して、3.1歳上昇しています。女性の妊娠する力は、年齢とともに低下していきます。その理由として、「卵子の老化、質の低下」「卵子数の減少」「子宮内膜症・子宮筋腫などの罹患」「クラミジアなどの感染」などが挙げられます。

子宮や卵巣の状態や、病気の有無などを調べることにより、「妊娠する力」の強弱を知ったり、病気の早期発見・早期治療に繋がります。「将来妊娠をのぞむ若い女性たち」にとりまして、早期の結婚や出産など、人生設計を考える資料にもなるかも知れません。 ただし、「不妊症」や「月経異常」などの病気ではなく、「妊娠する力があるのかどうかの相談や検査」の場合は、一部、保険外診療となることがあります。また、パートナーがある時のみに診断が可能な検査、例えば精液検査や精子頸管粘液適合試験などもあります。

ーー若いうちから将来の妊娠のためにどのようなことに気を付けて生活をすればよいでしょうか?

「やせたい」と願う女性はとても多いと思いますが、やせすぎや体重減少は、排卵障害、月経不順、不妊、早発閉経などの原因となります。また食事制限により、エネルギーや栄養素などの摂取が十分でないと考えられます。
喫煙は、女性の「妊娠する力」を低下させます。低下した力の一部は、禁煙しても回復しないことがあります。
過量の飲酒は、排卵障害、着床障害、不妊などのリスクを増大させます。
これらの食生活や嗜好は、「結婚した」「妊娠を希望するようになった」からと言って、すぐに改善できるものではありません。若いうちから将来の妊娠のために気を付けて行きましょう。

ーー生理のコンディションが不妊と因果関係がないと思っている若い世代に対して、例えば生理不順や生理の量が少ないなど、将来不妊になる可能性はありますでしょうか?

「生理不順や生理の量が少ないなど」は、卵巣機能低下や、早発卵巣不全・早発閉経の初発症状であることがあります。将来、不妊になる可能性がありますので、「不妊と因果関係がない」と思わずに、産婦人科を受診しましょう。生理不順や生理の量が少ない原因を調べるとともに、卵巣に残っている卵子数、卵巣予備能の指標となる抗ミュラー管ホルモン(AMH、卵巣年齢)という血液検査を受けることにより、早発卵巣不全を早期に発見することができることがあります。この検査も「将来妊娠をのぞむ若い女性たち」にとりまして、早期の結婚や出産など、人生設計を考える資料にもなるかも知れません。

ーー生理痛で悩んでいるものの、妊活中なので排卵は止めたくないという女性にピル以外の薬等の処方は可能でしょうか?

 非ステロイド抗消炎剤やブチルスコポラミンなどが有効です。
「鎮痛剤はなるべく飲まずに我慢して、痛みのピークにだけに服用」している女性を多く見かけます。この服用方法は鎮痛にはあまり効果はありません。月経開始前など痛みが軽いうちからピークを過ぎるまで、十分な量の服薬をしましょう。

漢方薬も効果があります。芍薬甘草湯、当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸、桃核承気湯、当帰建中湯などがあります。1~2カ月以上服薬してみましょう。鎮痛剤と併用することもできます。妊娠が判明したら中止したほうが良いとされる漢方薬もあります。

ーー子宮卵管造影検査は避けるドクターもいると聞いていますが、子宮の卵管の通りをするから良いという話もききます。本当のところはどうなのでしょうか?

子宮卵管造影検査が妊娠する力を高めるかどうかは、議論の分かれるところです。子宮卵管造影検査を受けた後、3~6ヶ月ほど妊娠する力が向上するという報告もありますし、検査後に妊娠した患者さんも多く見ます。

ーークリニックでの診療の流れですが、一般不妊治療から生殖補助医療へのステップアップの見極めはどのようなところで判断されるのでしょうか?

不妊原因、女性の年齢、精液検査所見、夫婦の考え方などによって大きく異なります。一般不妊治療の一つである人工授精で妊娠する夫婦のほとんどは、3~4回以内に結果が出ます。それ以上の回数で妊娠できる夫婦はとても少数です。 4(~6)回の人工授精で妊娠に至らない場合は、人工授精では解決できない不妊原因の存在が疑われることや、特に女性の高年齢化を少しでも防ぐために、生殖補助医療(体外受精、顕微授精)へのステップアップを提案しています。

ーー妊娠しやすいカラダづくりのために、サプリメントや食事指導などクリニックでフォロアップとして取り組まれていることはございますか?

津田沼IVFクリニックでは、女性のサプリメントや食事に関する検査として、銅、亜鉛、ビタミンDを、37歳以上の方にはDHEA-Sも測定しています。 銅濃度の高値は着床不全の危険因子であり、亜鉛が銅を下げる働きがあります。また、亜鉛は胎児の発育に重要な栄養素です。サプリメントや食事で、銅と亜鉛の濃度やバランスを整えています。ビタミンDは着床などの女性の妊娠する力を高め、更に胎児の骨の発育に関係します。サプリメントや食事、日光浴で必要な濃度に高めています。 DHEAは体内ではコレステロールから作られ、女性ホルモンに変換されます。20歳代に最高値となり、40歳代でその40~50%に低下すると卵巣の反応性が低下します。卵巣予備能が低下している方がDHEAサプリメントを服用すると、抗ミュラー管ホルモン値や胞状卵胞数が改善したり、染色体異常胚が低率であったという報告があります。また、体外受精周期前にDHEAサプリメントを3か月間服用すると、採卵数、成熟卵数、受精率、良好胚数、臨床妊娠率、継続妊娠率、生産率が高率であったという報告があります。

ーー最近腸活ブームというところで、子宮内の環境も腸と同じく子宮内フローラが大切ということもちらほら聞こえます。先生はどのようにお考えでいらっしゃいますか?

子宮内腔には108種類の細菌が存在します。乳酸菌の割合が少なかったり、細菌叢の異常が妊娠する力に影響します。病原菌は炎症を起こし、形質細胞という異常細胞の出現や子宮内膜細胞の障害をもたらします(慢性子宮内膜炎)。

子宮内フローラは着床率、妊娠率、妊娠継続率、流産率などに影響を与え、子宮内フローラの異常は着床障害の原因となる恐れがあります。子宮内フローラの異常が認められた場合、その治療により着床障害や流産などへの好影響が期待できます。

ーー先生のブログで葉酸と神経管閉鎖障害の事を書かれていました。葉酸は女性としてどの時点で摂取を始めたらよいですか?妊娠確定の一カ月以上前からが望ましいと書かれていましたが、わからずに妊娠していたということもあるかと思います。飲むのが早ければ早いほどコンディションを整えることになりますか?また葉酸を飲みすぎると害になりますか?

葉酸サプリメントを全く摂取しないと、胎児が神経管閉鎖障害(脳や脊柱に発生する先天性の癒合不全で、無脳症、脳瘤、二分脊椎などがあります)となる確率が2.5倍とされています。

神経管の閉鎖は妊娠6週末で完成しますので、妊娠に気づいてからの葉酸服用では遅すぎます。妊娠が成立する1か月以上前からの葉酸サプリメント摂取が、この疾患の予防に有効です。また、葉酸は、流産の防止、胎盤早期剥離の防止などの効果も指摘されていますので、全妊娠期間を通じて摂取してもよいとされています。
ただし、運動神経発達遅延など長期服用による有害事象が否定できない報告がありますので、神経管閉鎖障害児の妊娠出産既往がある女性は多くの葉酸を摂取していると思いますが、妊娠12週になりましたら速やかに1日0.4mgに戻しましょう。

ーー不育症の4大原因として抗リン脂質抗体、子宮奇形、夫婦染色体異常、胎児染色体数的異常などを挙げられていました。着床障害においても、そもそもその原因を作らないようにするために、体質改善等で避けることは可能なのでしょうか?

抗リン脂質抗体、子宮奇形、夫婦染色体異常につきましては、体質改善など個人の努力では避けることはできません。胚の染色体異常につきましては、卵子や精子の質を高めることにより、多少は避けられる可能性はあると思います。肥満は着床不全の原因となり、体格指数BMI27以上で流産率が、30以上で反復流産が上昇します。また、肥満では妊娠するまでの期間が長い、生殖補助医療での妊娠率と出生率が低く、流産率が高くなることが報告されています。生殖補助医療では、胚移植までにダイエットを成功することが効果的なようです。

ーー不妊治療は患者にとってとても大きなストレスになる可能性が高いのですが、患者さまに対して先生が心がけておられるポイントはありますか?

検査や治療の必要性を理解してもらい、診察の結果、何が改善・解決していて、何が不足しているのか、どう対応できるのかなど、進捗状況や計画を伝えていくこと、自身を知っていただくことなどが、ストレスを減らすにはとても大切と思います。

ーーその他先生の方より、将来妊娠を考える女性たちに一言お願いいたします。

身体を大切にしてあげてください。 年に一回くらいは、産婦人科で妊娠する力のチェックを受けてください。

津田沼IVFクリニック院長 吉川守(きっかわまもる)先生

院長プロフィール
亀田総合病院(鴨川市)
船橋二和病院(船橋市)
セントマーガレット病院(八千代市)
千葉徳洲会病院(船橋市)
あびこクリニック(我孫子市)
いたはし産婦人科(市原市)
山王病院(千葉市)などを経て、
平成22年11月2日(火)津田沼IVFクリニック開院

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