ドクターインタビュー こまえクリニック・女性は自分の卵巣を知らない

今回は、内科医として「不妊ルーム」を20年以上前に開設されているこまえクリニック院長の放生先生インタビューさせていただきました。
「妊娠レッスン」が出版されて20年。未だに12刷の名著として妊娠を考える方々に読まれています。

ーー4月から不妊治療の保険適用が始まりました。先生はこの流れをどのように御感じになられていらっしゃいますか?

20年前、将来の日本は100人にひとりは体外受精で生まれてくるであろうと考えていましたが、実際は14人に一人。つまりどのクラスにも一人ないし二人の体外受精児がいるのが普通です。東京はさらに10人に一人と言われています。

わたしは、不妊治療=体外受精と考える人が大変多いということが気になっています。

ーーそれは妊活の方法だとか、女性のカラダのことを実は知らないとかどう妊娠を成功させるかのコンディションの在り方の啓発が行き届いていないということでしょうか?

こういうことがありました。
「患者さんに、卵巣の大きさはどれぐらいだと思いますか?」と尋ねたところ、「握りこぶしくらい」「ニワトリの卵くらい」「ピンポン玉くらいの大きさでしょうか」という答えが返ってきました。卵巣はあなたの親指の第一関節くらいの大きさです。それが子宮の両側にあるわけです。実は妊娠を考えている女性の多くの女性が卵巣の大きささえわかっていない人が多いのです。
うちの「不妊ルーム」を作って20年になりますが、これまで9000組のカップルにカウンセリングを行ってきました。「不妊ルーム」は不妊治療を検討している方や不妊治療からステップダウンを求める方のためのベースキャンプとして妊娠の質を高めるお手伝いをしております。

卵巣の中の卵子は、水槽の中の金魚のようなもの。水槽のコンディショニングを行うことで金魚は元気に泳ぐことができるのと同じく、妊活の一番の大事なポイントは「卵巣を大切にすること」、「卵巣に元気を与えること」だと考えています。

北風と太陽というイソップ童話をご存じですか?

旅人に服を脱がせた方が勝者であると、北風が旅人に風を強く吹き付けるのですが、そうしますと旅人は強く服をしっかり押さえ脱がせることができません。逆に太陽が暖かい光を浴びせると安心して旅人が服を脱ぐという話です。

ーーつまりは手っ取り早く乱暴な手段を取るよりもゆっくりと優しく温かい方法を取った方が結果につながった、という物事への働きかける方法の違いを表した寓話ですね。

そのとおりです。わたしは体外受精に反対しているわけではありません。体外受精では、排卵誘発を行うために注射を打ちますのでどうしても卵巣に刺激を与えることになります。わたしはその前に妊娠の質を考え、なるべく卵巣を刺激しない、ただでさえ減っていく一方の卵子を大切にしたいと考えており、内科医的な視点により、卵巣を元気にする診療をしています。
卵巣が元気であれば排卵活動も元気で良い卵も育ちやすいのです。よってうちにクリニックでは卵巣のコンディションを良くして妊娠に近づける、例え体外受精が必要な患者さんだとしてもなるべく卵巣に刺激を与えず、ベストな卵巣のコンディションにして体外受精の協力医療機関に送りたいのです。

ーー例えばどのような方法で卵巣を元気にできるのでしょうか?

ビタミンDですね。卵子だけでなく精子の形成にも関係します。
食生活を考えたときに、海の幸も山の幸も不足はしませんが、ビタミンDだけは不足します。ビタミンDは皮膚で合成されるために日光が必要です。太陽は日焼けを防ぐために避ける傾向もあるためどうも現代人には不足しがちです。
それと亜鉛と銅のバランスも大事です。数年前に亜鉛欠乏症に伴う不妊症に対して亜鉛の薬が適用になりました。また甲状腺ホルモンのコントロールも大切です。

顆粒膜細胞という細胞にわたしは注目しています。卵胞の中には卵子と卵子を囲む顆粒膜細胞という細胞があり、この顆粒膜細胞で作られるのがエストロゲンです。
毎月排卵というものがありますが、卵子による排卵レースは、卵巣の中で行われます。100個近くの原始卵胞が目覚めてレースにエントリーしても、2 、3日もすると10数個の先頭集団となり、排卵直前に超音波検査で観察できるのは5,6個のみとなります。
排卵するのは、主席卵胞とよばれるもっとも大きく成長したものです。
この排卵レースにエントリーした卵胞は、日をおうごとに大きさを増大させさせるとともに、その中で顆粒膜細胞も急激に増えてきます。
毎月の排卵レースが活発に行われることは、顆粒膜細胞からエストロゲンが活発に産生されることであり、女性の美の元が、血中にたくさん分泌されるということです。

妊娠にも顆粒膜細胞の質を高めることがとても大切です。エストロゲン=すなわち美の源です。エストロゲンが健全に繰り返されることが美の本質であり、卵巣を元気にすることは妊娠しやすいカラダにも大切であり、妊娠に関係せずとも女性をいつまでもキレイに保つことにつながります。

ーー顆粒膜細胞は妊活に対する大切なキーワードなんですね。今後も注目していきたいと思います。またいつまでも女性をキレイに保つ細胞ということは新たな学びになりました。

今日はどうもありがとうございました。

こまえクリニック院長 放生勲(ほうじょういさお)先生
こまえクリニック 不妊ルーム

院長プロフィール
昭和62年3月 弘前大学医学部卒業。
都内の病院にて2年間の内科研修修了後、平成元年6月~平成2年9月
ドイツ政府国費留学生としてフライブルク大学病院およびマックス=プランク免疫学研究所留学。
東京大学大学院医学博士課程修了(東京大学医学博士)。
東京医科歯科大学難治疾患研究所を経て、平成11年5月こまえクリニック開院。

著書多数



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