WHOの不妊症への取り組みと見解(抜粋)

出典元:WHO

世界には4800万組のカップル、1億8600万人の個人、実に生殖年齢の15%が不妊症とされています。

課題への対応

不妊症に対処についてのさまざまなことは依然として課題であり、不妊症の診断と治療は、国の人口開発政策や※リプロダクティブヘルス戦略において優先されないことが多く、また公的医療費でカバーされることはほとんどありません。さらに人材や必要な設備・インフラの不足、治療薬の高騰は、不妊症患者のニーズに積極的に取り組んでいる国にとっても大きな障壁となっています。

生殖補助医療(ART)は30年以上前から行われており、体外受精(IVF)などにより世界中で500万人以上の子供が生まれていますが、平等で公平な不妊治療はほとんどの国々、特に低・中所得国において課題となっています。

政府の政策により、安全で効果的な不妊治療への取り組みにおいての多くの不公平を緩和しないといけません。不妊症に効果的に対処するために、保健政策は不妊症がしばしば予防できるものであることを認識する必要があり、それによって、高額な医療費となる不妊治療を軽減することができます。

国の包括的な性教育プログラムに不妊に対する認識を盛り込むこと、STI(性病)の予防、診断、早期治療を含む取り組みによりリスクを減らし、健康的なライフスタイルの促進、危険な中絶、産後敗血症、腹部/骨盤手術の合併症の予防、不妊と関連する環境毒素への対処は、すべての政府が実施できる政策・プログラムです。

さらに、第三者の生殖やARTを規制することを可能にする法律や政策は、差別のない普遍的な取り組みを行うことにより、関係者全員の人権を保護し促進するために不可欠です。不妊治療政策が実施された後は、その実施状況を監視し、サービスの質を継続的に向上させることが不可欠です。

WHOの対応

WHOは、不妊治療サービスを含む家族計画に関する質の高いサービスの提供が、※リプロダクティブ・ヘルスの中核的要素の一つであることを認識しています。不妊症が人々の生活の質や幸福に与える重要性と影響を認識し、WHOは以下の方法で不妊症と不妊ケアに取り組むことを約束します。

〇パートナーとの協力による不妊症の世界的な疫学的、病因論的研究の実施。

〇不妊症に関する世界的な疫学的・病因論的研究を行うためのパートナーとの協力、および世界各国との政策対話の促進。

〇資源配分やサービス提供のための不妊症の負担に関するデータ作成の支援。

〇不妊治療に関する質の高いケアの世界的な規範と基準の一部として、男性および女性の不妊症の予防、診断、治療に関するガイドラインを作成。

〇ヒト精液の検査と処理に関するWHOラボラトリーマニュアルなど、その他の規範的製品の継続的な改訂と更新。

〇学術センター、保健省、他の国連機関、非国家主体(NSAs)、その他のパートナーを含む関係者と協力し、世界的に不妊治療を提供するための政治的コミットメント、利用可能性、保健システム能力を強化すること。

〇加盟国に対して、国の不妊治療政策およびサービスの開発または実施強化のための国レベルの技術支援を提供。

リプロダクティブヘルスとは?

性と生殖に関する健康と権利

“女性は、妊娠や出産をする可能性があることもあり、ライフサイクルを通じて男性とは異なる健康上の問題に直面する。こうした問題の重要性について男性を含め、広く社会全体の認識が高まり、積極的な取組が行われるよう気運の醸成を図る。”

という意味で1994年にカイロで開催された国際人口開発会議において提唱された概念で性や子どもを産むことに関わるすべてにおいて、身体的にも精神的にも社会的にも本人の意思が尊重され、自分らしく生きられることです。

2022年7月5日追記:
リプロダクティブヘルスの本質とは?
リプロダクティブヘルスは「セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」という言葉から来ており、上記に説明している通り、性と生殖に関する健康と権利という意味ですが、それぞれの意味するところは、下記のとおりです。

リプロダクティブ・ヘルス
妊娠したい人、妊娠したくない人、産む・産まないに興味も関心もない人、アセクシャルな人(無性愛、非性愛の人)問わず、心身ともに満たされ健康にいられること。

セクシュアル・ライツ
セクシュアリティ「性」を、自分で決められる権利のこと。自分の愛する人、自分のプライバシー、自分の性的な快楽、自分の性のあり方(男か女かそのどちらでもないか)を自分で決められる権利です。

リプロダクティブ ・ライツ
産むか産まないか、いつ・何人子どもを持つかを自分で決める権利。妊娠、出産、中絶について十分な情報を得られ、「生殖」に関するすべてのことを自分で決められる権利です。

また、グットマッハー・ランセット コミッションは、 2018 年 5 月に発表した報告書は、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する未解決の課題の範囲を示すとともに、人権の観点からエビデンスに基づいた、包括的な SRHR の新しい定義を提示し、必須SRHR関連事業の包括的なパッケージを推奨しています。

■包括的な定義

性と生殖の健康とは、身体、感情、精神、社会的な幸福がセクシュアリティと生殖のすべての局面で実現できていることを指します。単に病気、機能障害、虚弱ではない状態を意味するのではありません。そのため、セクシュアリティと生殖への肯定的なアプローチで、楽しみながら築ける性的な関係を維持することで信頼やコミュニケーションが醸成され、個人の自尊心と幸福が導き出されることを受け入れ、認めなければなりません。すべての個人は、自分の身体に関する決断を自ら下す権利を持ち、その権利を実現するために必要なサービスを受ける権利があります。

性と生殖の健康(SRH)の実現には、性と生殖の権利(SRR)を達成する必要があり、次のような個人の人権が尊重されなくてはなりません。

• 自分の身体は自分のものであり、プライバシーや個人の自主性が尊重されること
• 自分の性的指向、ジェンダー自認、性表現を含めたセクシュアリティについて自由に定義できること
• 性的な行動をとるかとらないか、とるなら、その時期を自分で決められること
• 自由に性のパートナーを選べること
• 性体験が安全で楽しめるものであること
• いつ、誰と、結婚するか、それとも結婚しないかを選べること
• 子どもを持つかどうか、持つとしたらいつ、どのように、何人の子どもを持つかを選べること
• 上記に関して必要な情報、資源、サービス、支援を生涯にわたって得られ、これらに関していついかなる時も差別、強制、搾取、暴力を受けないこと
誰もが絶対に必要とするセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス必須サービスは、公衆衛生と人権の基準に基づいたものでなければなりません。特に、それらは、健康への権利行使に必要な「サービスがあること、その受けやすさ、容認性、質の高さ」が保障されなければなりません。この必須サービスには次のようなものが含まれます。

• セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスに関する正確な情報と、カウンセリングサービス。これにはエビデンスに基づいた包括的性教育(CSE)が含まれます
• 性機能と性的な満足に関する情報、カウンセリング、ケア
• 性暴力、ジェンダーに基づく暴力、性的強制の予防、発見、対策
• 安全で有効な避妊法の選択肢
• 安全で有効な産前、出産、産後のケア
• 安全で有効な中絶サービスとケア
• 不妊予防、対策、治療
• HIV を含む性感染症(STI)と生殖器系感染症予防、発見、治療
• 生殖器のがん予防、発見、治療

出典:国際家族計画連盟